2 小説 物語に浸る

葉室麟『秋月記』

武士の矜持 豊かな陰影 

 (角川文庫、初刊本は2009年1月)

 福岡藩の小藩、秋月藩の間(あいだ)小四郎が、自分の臆病さを克服せんと発起し、文武に励み、藩のためにひたすら信じる道を歩む。

 藩のためを思い、藩主に楯突くことも厭わない。それで仲間を失うことになるが、武士としての矜持を持ったまま、最後は島流しの罪を堂々と受け入れる。

多くの人物が登場する。なのに、どの男女のふるまいについても筆者は筆を惜しまない。若いころの改革派の仲間から、妻のもよ、伏影の妖剣士姫野三弥、漢詩の娘みち、大工と引き裂かれた悲運の娘いと……。人物造形も陰影もみな豊かで、奥が深い。

  少し前に読んだ『銀漢の賦』と同じ藩内抗争もの。どちらかというと『銀漢の賦』のほうが、ストーリーがよりシャープだったためか、印象が強い。

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