2 小説 物語に浸る

葉室麟『散り椿』

にぎやかな展開 秘めたる思い 

 (角川文庫、単行本は2012年3月)

 扇野藩の瓜生(うりゅう)新兵衛とその妻の篠が主人公である。瓜生はかつて上司の不正を訴えたが認められずに藩を追われ、篠とともに故郷を離れて18年。瓜生が妻の死をきっかけに扇野藩に戻ると、再び藩内抗争のさなかに……。

 新兵衛が剣を修行したときの「四天王」の仲間や、妻の妹とその息子藤吾が出てくる。中でも四天王のひとり、榊原采女が重要な立ち位置にいて、人物描写も細かい。

 篠といちどは婚約が整うが、義母の反対でなくなり、篠は新兵衛と夫婦になる。そこが物語の大きな柱になっていて、篠の本当の想いは采女と新兵衛のどちらにあったのかという揺れが最後までストーリーをはらはらさせていく。

 ほかにも悪徳家老や商人、忍者風のかげろう組なる男たちもでてくる。剣の秘術もなぞときに使われたりして、にぎやかな展開である。文庫で422ページと読みごたえがあり、ページを途中で閉じるのが惜しいと思った時が3度も4度もあった。

 散る椿は残る椿があると思えばこそ見事に散っていける…。

 くもり日の影としなれる我なれば、目にこそ見えね身をばはなれず

秘めた思い、誠実に生きようとするときの葛藤-。葉室麟の真骨頂がここにある。

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