老いを正面から見つめる凄み
(クロード・ルルーシュ監督、1966/1987/2019年)
フランス映画「男と女」の53年後を描いた新作ができ、日本でも上映されると新聞で知った。もとの作品を名古屋で学生の時に観たことは覚えているが、いつどこでだれと観たかはまったく記憶がない。
あの「シャバダバダ」の主題歌だけは、ギター演奏曲として下宿で覚え、その後もときどき自宅でひとりになったときに奏でてきた。弾くたびに、なんて小粋な曲なんだとうっとりしつつ、自分の演奏が年とともにどんどん下手になっていくことにがっかりしてきた。
新作を観る前に、まずはもとの作品を見直したくなった。記事によれば「20年後」という続編もあったらしい。まずそのふたつをDVDで観てから、最新作を劇場で観ることにした。ネットで調べると、三部作と公開年次は以下の通りだった。
- 第1作 1966(昭和41)年 Un Homme et Femme
- 第2作 1987(昭和62)年 Un Homme et Femme 20 ans deja
- 第3作 2020(令和 2) 年 Un Homme et Femme 人生最良の日々
さて最新作である。90歳(?)になった元レーサーは老人ホームにいて、息子の計らいで、かつての想い人であるアンヌが訪ねてくる。ぼくらよりも明らかに年老いた風貌になった二人の顔のアップが交互に映り、人生考察に満ちたしゃれた会話が続いていく。
男の記憶はあるときは極めて明確で、あるときはひどくぼけてしまう。目の前の女が、50余年前に激しく愛し合ったアンヌとは当初わからない。
男と女、いや人間そのものの存在と老いに潜むすべての事柄が、ふたりの表情とセリフ、訪れた先の映像、取り巻きの人々の織りなす調和と不調和の中に展開していく。
新作は2月11日夕、伏見から伏見交差点をはさんで東北部へと移転新築したミリオン座で観た。第1作を観たのももしかしたらかつてのミリオン座だったか、松坂屋近くにあったロマン座だったかもしれない。
新ミリオン座は40席ほどがほぼ埋まっていた。7割が女性で、中心層は50代だろうか。全体の7割が40-50代に見えた。ぼくらみたいな60台後半とおぼしき夫婦も、ちらほらいらした。これからの老いや夫婦の将来像を考え、みつめる目線の先に、この映画があるのだろう。
ラストシーンは、二人が最初に逢ったノルマンジーの夕陽。アンヌのセリフが映像にかぶさる。字幕には、確か、こうあった。
「とてもきれい」
「早くしないと、もうすぐ陽が沈んでしまうわよ」
このセリフに監督のメッセージが込められているように思う。
観終わって妻は言った。
「あんなかっこよかったふたりが、すっかり老けてしまって…。アップの画面を見てるの、辛かった」
ぼくは気丈に、わかった風な口調でほめた。
「面白かった。セリフがしゃれてて、含蓄もあって…。こんな映画を作れる映画人たちがいて、それを観る観客がいる国は、さすがだなあ」