それは あなたのすぐそばに?
(ロブ・ライナー監督、日本公開2008年、DVD)
この米国映画のリメイク版をなんと、吉永小百合と天海祐希という日本の妙齢女優が演じた作品が昨年公開されていたので、先に本家を見直してから日本版を観ようと思った。何にだってストーリーが必要だし、リメークはもとを思い出せなければ楽しめない。
見直してみると、想定外に見入ってしまった。ジャック・ニコルソンが友人のモーガン・フリーマンの教会葬儀で弔辞を読む場面では、涙が出てしまった。ぼくも67歳になり、モーガン演じる修理工とほぼ同じ年齢で、いつ「余命6か月」と言われても不思議ではない年になったからだろう。
それにストーリーがあまりにも巧みだし、主役ふたりの演技もあまりにもうますぎる。表現の未熟さをさらけ出すようだが、「あまりにも」を二回も使うしかないほど、うまい。
原題は「BUCKET LIST」。BUCKETはバケツの意味で直接「棺桶」を示す語ではないが、KICK THE BUCKETという成句が死ぬことを意味する、ということから題名になっているらしい。後でウィクペデイアで知った。
互いに死期が近い病気がわかった富豪と自動車修理工が、たまたま同じ病室になって知りあい、死ぬまでにやりたいことを書き出してみたことで冒険が始まる。スカイダイビンク、ピラミッド登り、スポーツカー運転、エベレスト登頂…。
エベレストを除けばもっとも難しいと思われた「腹の底から笑う」「世界一の美女とキス」が最後にかなうあたりの展開は、さすがハリウッド、とうなってしまう。
■ 人生観のぶつかりに もうひとつの本質
それよりも、いまこの年になったから理解できる展開もあった。ふたりが仲良くなっても人生観が激突する場面が、人生のもうひとつの本質をついているなと感じさせてくれたのだ。たとえば―
富豪の愛する娘は夫のDVに苦しんでいた。富豪はその婿を「その筋の力を借りて」追い払ったが、娘はそれに反発しふたりは疎遠になっていた。その関係を修復しようと修理工が勝手に細工をしたことに富豪が激怒する。
その一方で、異性には慎重な修理工を見て、富豪は高級娼婦を金で雇い修理工に近づけようとするが、修理工はそれを激しく拒絶し、妻に逢いたくなって自宅へ戻る。
やれやれ、「最高の人生」は、あなたのすぐ近くの家族や友人との間にありますよ、が結論だとぼくは受け取った。その反面、そうとわかるためにも、後悔しないだけの挑戦はたとえ無謀なことであってもやめてはいけない、というのもメッセージだとぼくは受け取りたい。