3 随筆 個性に触れる

NHK-FM『ディスカバー・ビートルズ』

尽きぬ泉 ラジオの至福 デジタルの力 

 (2020年4月開始、日曜21時~)

 こんなに夢中になって浸りきれる音楽番組はいつ以来だろうか。大好きなビートルズの無限の魅力を、日本のバンドマンふたりが元気に掘り下げてくれる。ゴルフ場との往復時に、聞き逃し配信をスマホで受けて車に無線接続し、コロナ禍で遠くなった英国の気分も味わっている。

■最初はアプリ 番組ロゴに魅せられた

 ぼくはビートルズファンではあるけれど、それほどコアでもフリークでもない。原曲CDはひとそろい持っていて、好きな曲をときおりギターで弾き語りして楽しむ程度だ。ラジオは既存メディアの中では新聞に次いで好きで、一昨年からは聞き逃しサービスを重宝していた。

 たしか昨年の5月のある夜だった。眠る前に音楽が聴きたくなり、枕元で聞き逃しアプリ「らじる★らじる」で検索していたら、このロゴが目に留まった。

<▲番組のロゴ。イラストは故・和田誠氏の作品>

 シンプルだけど柔らかな線、目と鼻と口の大胆なディフォルメ…。4人の本質を射抜くタッチは、どこかで観たことがあるぞ、と思った。ビートルズの題名に魅かれてポチっとしたら、すぐ再生が始まった。

 聞きなれた楽曲が次から次へ流れる。案内役のミュージシャン、杉真理さんがエッジの効いた選曲と解説をしてくれる。初めて知るエピソードがいっぱい出てくる。ジョンやジョージのギター、ポールのベース、リンゴのドラムの個性も教えてくれる。4人のハモり方の分析もすごい。「な、なんなんだ、これは」と、すぐに夢中になって毎週聴き続けてきた。

■案内役の父は伝説のイラストレーター

 この番組は昨年4月、コロナ第1波のさなかに始まっていた。月末の日曜日だけは杉さんの音楽仲間、和田唱さんが案内役だった。杉さんより若く、より元気なノリでビートルズに迫ってくれる。

 2人がそろって登場した際の会話で、唱さんの父親が著名イラストレーターの故・和田誠氏と知った。しかもあの番組のイラストは、ビートルズが来日して大騒ぎになった1966年に和田氏が描いた作品だったという。よく見ると真ん中下に小さく「©Wada Makoto」とある。この絵の切れ味、すごい。彼らの音楽と同じで54年たっても古びていない。

 和田氏は『お楽しみはこれからだ』(1975年)の筆者でもある。ぼくは学生時代にこの本から映画を観た後の愉しみ方を教えてもらった。その考え方はこのブログの「コンセプト」に借用させていただいた。晶さんのビートルズ好きは父譲りだとか。こういう「ストーリー」にもぐっときた。

■『イン・マイ・ライフ』のカバー曲に仰天

 この番組で印象に残ったところを書き出すときりがないが、先週の日曜日(1月10日)の特集『まるごとビートルズ・カバー』はベストワンの面白さだった。それもあってきょう、こうして文章にしてみる気になった。

 この日は冒頭で杉さんが、世界にあまたあるカバー曲から、原曲へのリスペクトがあり、かつ独創性にも富んだ曲をそろえたと言った。その中でも最後に流れた『イン・マイ・ライフ』には正直のけぞって絶句した。

<▲ぼくの棚に並ぶビートルズCDたち>

 なんと英国の俳優、故ショーン・コネリーがピアノをバックに歌詞を朗読していた。低くて、渋くて、野太い声ー。あのひげ面と、色気がありながらチャーミングな笑顔が頭に浮んできた。『OO7』の彼ではない。もっと年輪を重ねた『インディ・ジョーンズ』での老齢の彼だ。

 ジョンの作とされるこの曲は、メロディーもいいけれど、歌詞がより心にしみてくる。ぼくもひとりの時によく歌う。だけどあの大物俳優がこんな形で”カバー”していたなんて知らなかった。新鮮だった。

 番組では最後に杉さんが「こうなると、やはり本物を聴きたくなりますよねえ」と語り、原曲も流してくれた。ジョージ・マーティンの間奏がやはりいい。このあたりの構成もファン心理をよくわかっていて、にくい。

 ■ゴルフ場への往復時に 聞き逃し配信で

 ぼくは日曜日というとこの10年間、ほとんど朝の5時に起床してきた。所属ゴルフクラブの競技に朝イチで参加するためだ。だからこの番組が放送される日曜午後9時になると、眠くてとても起きていられない。

 そこで重宝しているのが聞き逃しサービスだった。アプリを入れれば1週間以内ならスマホ再生が可能になった。ゴルフ場まで車で30分ほどだから往復あわせて1時間ちょっと。この番組と同じ長さだ。スマホをBluetoothでカーステレオにつないで好きな音量と音質で聴き入っている。

 この番組が始まった時から世界はコロナ禍にある。ビートルズを生んだイギリスという国も大好きなのに、いつ再訪できるかまったくわからない。ちなみにゴルフ発祥の地も英国とされ、ぼくが憧れてやまないリンクスコースは、『イン・マイ・ライフ』をカバーしてくれたショーン・コネリーの故郷スコットランドの海岸に集中している。

 スマホ、聞き逃しサービス、Bluetooth…。こうしたデジタル技術のおかげで、日本の車中でいつでも、はるか遠いリバプールのライブハウスにいる気分になれる。この番組はことし3月までらしい。コロナ終息が見えているか微妙だが、本物の街やライブに身を浸すことができるまでは、デジタルの力を借りることにしよう。

 

 

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