切れ味と度胸 鮮やかすぎる
(文春文庫、初刊は1992年)
ぼくにとっては藤沢作品の中でももっとも好きな作品のひとつだ。剣術ものの中でも「剣の道」の精神があふれている。書棚の藤沢コーナーを眺めていてつい手が伸びて、9年ぶりに読み直してみた。
人物描写が秀逸である。秘術「馬の骨」の遣い手探しを家老から命じられた銀四郎は、はじめこそ狂気を宿した風の変人であるが、主人公の浅沼半七郎との接点が増えるのにつれて、魅力を輝かせるようになっていく。
特筆すべきは妻の杉江だろう。長男を亡くしてから気鬱の症状が出て、半七郎も扱いに困り果てているものの、物語が進むにつれて快方に向かっていく。
そしてラスト。下僕の語りによって明かされる妻の大胆な行い。というより剣の切れ味と度胸が鮮やかすぎる。解説の出久根達郎によれば、真の犯人は妻である? うーん、「真の主人公」という意味ならわかるのだが。