絵を描く場面がない でも不自然でない
(沖田修一監督、2018年5月公開)
公開時から気になる作品だったが観られず、DVDで観た。熊谷守一という孤高の作家と、その晩年の老境の暮らしというテーマだけでもそそられるのに加え、山崎努と樹木希林という名優が演じる夫婦ぶりも観たかった。
熊谷守一が生涯にわたって自宅からほとんど外出しなかった、というのは伝説ではなく本当らしい。それは彼の代表作を見ればうなずける。アリや草花が平面に描かれている。彼にとっていらないものはみなそぎ落として、本質だけを素朴に描いた…。モンドリアンの絵に一部、具象が入っているような…。
この映画づくりで意外なのは、熊谷画伯が絵を描く場面は出てこなくて、ずっと庭に寝転がっていたり、ただ座って何かをひたすら観察しているシーンの連続であることだ。その一方で、画伯がものを食べるシーンはふんだんに出てくる。
画家の日常を描くという映画からすればミスマッチというべきなのに、観た印象はちっともミスマッチではない。うーん、すごい。