五輪 学園 霊になって知る実相
(朝日文庫、初刊は2012年3月)
浅田次郎にハズレはない。この本はそれをまた確認させてくれた。
山荘暮らしの60代の男が、霊になって過去の人物に”再会”し、当時とその後の真実を知る―。タイムトリップ設定は筆者の作品ではときどき出会う。
最初にさかのぼったのは、東京五輪前後の東京だ。東京五輪は、日本が戦災からの復興を遂げたことの象徴とみなされることが多い。しかしこの小説で主人公が霊になって知る当時の社会の実相は、「戦後の日本の回復と発展」とされるものへの強い違和感であろう。
後半は主人公が大学1年生のころに戻る。大学は学園闘争が吹き荒れて休校が続いていたが、主人公や仲間はノンポリの金持ち学生だった。仲間の視線を通じて当時の自分たちの生き方がいかに頼りないものであったかを悟る。
浅田作品を読んだときいつも思う。ストーリーが巧みである。ディテールに揺るぎがない。込められたメッセージが熱い。登場人物のそれぞれに体温を感じる―。ひとつ年上の作家だから、余計にそう感じるのかもしれない。