こんがらがってる だけど不思議な明るさ
(新潮文庫、初刊は2002年9月)
不思議な小説だった。まさに春樹ワールド。本当にありそうなこととイマジネーションの世界の、見事で華麗で時に大胆な融合である。
「ナカタさん」がやはり効いている。1巻に出てくる調書の引用はリアリティがある。真実は本当にそうだったのかが最後に出てくると思ったら、明確な謎解きはなし。するとあの山中での集団一時的記憶喪失事件は何だったのだろう。
それにしても高校の図書館の設定とか、性同一性障害の女性とか、15歳で完璧な相手を見つけた少女の人生とか、猫を殺して魂を集める男とか、よくもいろいろと紡ぎだしてくれるもんだ。
こんがらがってるけど、妙な明るさがある。春樹ワールドは楽しい。突っ込みどころがあったって、それでいいじゃないか。