物語性とあふれる抒情 小説で本物と得心
(幻冬舎文庫、初刊2002年12月)
驚いたなあ。構成、文章、テーマの深さ、男女の機微…。いいねえ。ぼくと同年と思えない。ずっとシンガーソングライターで活躍してきた人の余芸とも思えない。
もちろん、これまでの曲づくりや詩には物語性や抒情性がたっぷりと含まれていた。それはわかっていたけれど、この小説で本物だと得心した。
初期の歌には「女々しさ」とか「保守反動的」といった印象を抱いたこともある。同年にしては老成しすぎていると感じたことも。しかしこの作品集を読むと、深い観察眼にもとづいていたのだと、受け取り方が変わった。
なかでも最後の作品『サクラサク』が心に迫る。50過ぎのサラリーマンの会社論、夫婦の関係、こどものニート化、親の介護がからみあい、そうだそうだとうなずく箇所が何度もあった。
4つの作品からにじみ出でる人の好さとか、オプティミスティックな姿勢は、さだまさしという表現者の個性そのものなのだろう。もう少し年齢を加えると、この人のもっと硬派な部分、骨太な部分が前に出てくるのではないか。昨年の紅白で聴いた歌にはそれが出ていた気がした。