知的でペダンチック プレゼン場面に臨場感
(文春文庫、初刊2005年6月)
久しぶりの藤原伊織である。『テロリストのパラソル』『ひまわりの祝祭』『てのひらの闇』『蚊トンボ白髭の冒険』に続いて、またも堪能できて幸せな時間だった。
辰村38歳、立花42歳。交わす会話はこの作品でもしゃれていて、知的で、ペダンチックだ。設定年齢にしてはやや老成感がある。
55歳のぼくと同じかそれ以上に感じる。とはいってもそれは、ぼくがかれらの水準にないことの裏返しかもしれない。
作者はたしか電通の社員で、仕事をしながら作家活動も続けていたので、これだけCM業界に詳しい。
大型コンペでのプレゼンに至るまでのディテールは、業界人ならでは詳しさがある。少し冗長なところもあるけれど、これを省くと肝心の臨場感もなくなってしまうのだろう。
藤原伊織というとハンサムで、たばことマージャンが大好きで、仕事もできるという硬軟なんでもありというイメージだ。そのあたりは主人公の辰村に投影されているのだろう。2年ほど前にがんの手術をしたという記事を読んだ記憶があるが、回復したのだろうか。もっと読みたい。