理系の素養を投影 ストーカーと純愛の間
(文芸春秋社、初刊2005年8月)
2005年下半期の直木賞。作者が大阪府立大で電気工学を学び、日本電装のエンジニアとして5年の勤務経験があると知って驚いた記憶がある。そうした「理系」の素養がこの作品には十二分に投影されている。
とくに数学についての知識と関心、シンパシー。さまざまな定理が、この小説で描かれる犯罪のカギとして提示され、作品の屋台骨になっている。
ストーカー行為と純愛の間の「天文学的な距離」もテーマだ。このふたつは「似て非なる」ものだと筆者は言いたかったに違いない。「純愛」という表現を使わず、「恋をした」と書き、恋の相手の靖子には「これほど深い愛情にこれまで出会ったことがなかった」と言わせている。
昨年5月に読んだ『白夜行』より読後感がさわやかである。