「ばかめが」求め40年ぶり再読 いいものはいい
(新潮文庫、初刊は1957年10月)
ぼくがこの小説を最初に読んだのは、学生時代にテレビドラマを観たのがきっかけだった。もう40年も前のことになる。主人公の梅津を、男くささが持ち味の原田芳雄が演じ、友人の妹として仁科明子が出ていたはずだ。
そういえば、2年前にもNHKが別の俳優を配してドラマ化していた。
今回の読み直しは、日本経済新聞の一面下のコラムの書き出しに、梅津の遭難死を知った上司の言葉「ばかめが ! 」が出てきたのがきっかけだった。
コラムは政治家の発言を取り上げ、言葉に愛情がこもっているかどうかが大事だ、という趣旨だった。ただぼくは、書き出しの「ばかめが ! 」が『氷壁』にどんな形で出ていたか、まったく覚えていなかったのだ。
読みかえしてみると、梅津の上司、常盤大作は、梅津が遭難死を知った直後の東京事務所で社員たちに、梅津と登山の関係を語った最後にこの言葉を絞り出していた。梅津という山男が大好きで、彼の死を心から悔しく思って―。
枕本にして毎晩、眠りに落ちる前の10-20分ずつ読み継いだ。文句なしに面白かった。新鮮だった。布団に潜り込むのが楽しみになった。
学生時代に読んだ本をまた、こんなに楽しめるなんて。いいものはいい。