逃れた岐阜 訳あり男女 円熟の筆致
(新潮文庫、初刊は2011年6月)
もとは日本経済新聞の最終面の連載小説だった。主人公がDV夫から逃れてきた町が岐阜県に設定され、この作家がぼくと同年生まれということで以前から関心があったことから、「私の履歴書」とセットで毎朝読み始めた。
でも途中まで読んで小説はやめた。新聞の連載小説を読む習慣がなく、1回がぼくには短かすぎてじれったい。文庫になってからでいいかと。
文庫本になって、最初から読み直してみた。読後感は悪くなかった。どんな暗い幕切れになるかと不安だったが、最後はストン、という感じである。
最初に出てくる岐阜の街には、訳ありの人物が登場してくる。80歳の絵描きの老女とか、おかまバーを経営するゲイの60男とか。そのあたりの描写が実に巧みで、この筆者の円熟を感じつつ、小説世界を楽しむことができた。
ただこの街での展開がゆったりとしていたせいか、終盤に向かって展開が急になる感じがあって、ぼくにはもったいなく思えた。
それと終わってみれば、性格や人生がねじれていたのは、DV体質の映画監督だけだった。ほっとする反面、肩透かし感も残った。