5 映画 銀幕に酔う

邦画『壬生義士伝』

きらめく剣 匂いたつ男たち 岩手の美しさ

 (滝田洋二郎監督、2003年1月)

 映画公開時は見落としたが、小説のすばらしさを思い出し、ビデオをレンタルで借りてきて妻や長女と観た。浅田次郎の原作を先に読んでいた。

(▲原作の小説)

 こうした映画はどうしても原作と比べてしまう。原作を読んだ時の方が感慨深く、泣けたのは事実だ。

 小説では舞台が江戸と明治を行ったり来たりしつつ語り部が変わっていく構成になっていたし、推理小説のような展開のダイナミズムもあった。それらは、映画には出しにくい魅力だったのだと、さとらされた。

 その一方で、映画にしか表現できない味や特質もある。剣のきらめき、岩手の美しさ、新選組の男たちの匂い…。中井貴一は持ち味を出して好演している。

 ただぼくには、この物語の真髄のひとつでもある岩手弁が、少し聞き取りにくかった。方言そのものがもともとわかりにくいのか、どもっているからわかりにくいのか、傷ついてしゃべりにくい状態の演技のせいなのかが判然としにくいところがあった。

 彼の方言は、深く悲しい「義士」の気持ちを伝える大事な要素だったから、余計に気になった。

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