2 小説 物語に浸る

高任和夫『粉飾決算』

会社と自分の人生 折り合いをどうつけるか

 (講談社文庫、初刊は1999年『密命』)

 期待以上の面白さだった。楽しめた。ストーリーも文体も、人物の色づけも。

 特に主人公の芦田慎二。50歳手前にして会社と自分との折り合いに違和感を描いてきた男だ。

 妻の文子は元気に蕎麦屋の開店に仲間と出かけて盛り上がる。長男の翔太は就職活動で会社を訪問しながら、自分の進む方向を考えている。

 同時代人が感じているであろう感覚を、登場人物から肌で感じ取ることができる。

 同じ経済小説でも、そのあたりが幸田真音氏との違いだろう。三井物産に勤めていた高任氏のほうが、日本のサラリーマンやその家庭の体温をきちんと感じていているか、あるいは今も体内に宿している気がする。

 ただ題名の『粉飾決算』は内容とあってない。『架空取引』『依願退職』など、これまでの4文字漢字タイトルにこだわりすぎている感がある。真保裕一の初期作品もそうだったが。1999年に出した時の『密命』のままのほうが中身にあっているのでないか。

 それはともかく、もう一作、読もうかなあ。

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