2 小説 物語に浸る

北方謙三『擬態』

暴力やレースの細部に厚み 血と痛みも

 (文春文庫、初刊は2001年)

 久しぶりのハードボイルド、ひさしぶりの北方謙三である。

 40代の男が4年前に離婚し、それを期にトレーニングを始めた。そんな設定はぼくにも入りやすく、すぐに惹きこまれた。

 ただ読み進むと、内装工事会社との仕事の内容にリアリティがとぼしいのが気になってきた。そのぶんボクシングやカーレース、暴力シーンには、あふれるほどの細部の積み重ね出てくる。

 トレーニングと血や痛みはしっかりと書いてあるのである。その落差がハードボイルドの神髄なのかもしれない。

 ぼくとしては、仕事をしている中高年の心情に訴えるハードボイルドかというと、ちょっと疑問に思う。解説で池澤夏樹氏が「『檻』に匹敵する傑作」とほめているのには驚いた。

 久しぶりなので、ハードボイルドを楽しむ気分がぼくに薄かったのだろうか。

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