理不尽な暴力やいじめ 海軍でもと暗然
(講談社文庫、初刊は2004年8月)
横山秀夫って、戦争小説も書くのか―。驚きであり、新鮮であった。期待をはるかに上回る濃密感があった。
甲子園のエース、肩を壊して魔球をさぐる球児群像、戦争と軍隊…。陸軍ではなく、主人公が入隊した海軍でも、こんな理不尽ないじめやしばきや暴力があったのかと暗然となった。
海軍はもっと紳士的で、ロマンがあったと勝手に思い込んできた。戦後の海上自衛隊がある舞鶴で生まれ育ったので、余計にそう思いたかっただけなのかもしれない。どうやらそうではなかったらしい。
日本の教育現場ではいま、中学校でのいじめや、高校必修科目の履修漏れが「大問題」になっている。世の中の価値観は、その時点や時代においてのほかの価値と比べた相対的な要素が大きい。いま日本が「この程度の問題」で大騒ぎしているのなら「まだまし」なのかもしれない。
最終ページに、この本のもとは1996年、なんと10年も前にマガジン・ノベルズ・ドキュメントから発刊されたとある。まだ無名のころの「元気な一作」をその後、全面改稿した作品らしい。