5 映画 銀幕に酔う

米映画『Ray/レイ』

どんな名曲も人生の苦難が浸みこんでいる

 (テイラー・ハックフォード監督、日本公開2005年1月)

 盲目のシンガー、レイ・チャールズの天才と欠点と人生を、たくさんの名曲をつなぎながら浮かび上がらせ、同時に泥を洗い流していく。音楽映画の醍醐味と手ごたえをたっぷりと味わった。

 ぼくが小学生のころに初めて彼が歌ったという『ホワッド・アイ・セイ』『ジョージア』『アンチェン・マイ・ハート』が、あんな形で世に出たとは…。ヘロイン漬けになったが自分の力で克服するシーンにも驚いた。

 弟の溺死がトラウマになっていたことや、母の気丈な子育てなど、いまの日本では考えられないような幼少期を過ごしたことにも。

 どんな名曲も、いや名曲ゆえに、その誕生には深くて重い人生の苦難と物語が浸みこんでいるのだと、この映画を観てあらためて思う。

 人種差別を理由にアトランタ公演を直前でキャンセルし、ジョージア州が永久追放にしていたことも知らなかった。1996年のアトランタ五輪でぼくは、事前取材のため開幕前に2週間ほど滞在もしたのに。恥ずかしい。

 主演のジェイミー・フォックスは、自らも3歳のころからピアノを弾き、本物のレイと一緒に演奏したこともあるという。アフリカ系米国人の才能の豊かさと人材の分厚さをここからも感じる。

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