水準の高さにまた驚嘆 新作も一気読み
(文春文庫、2003年3月 / 講談社、2009年9月)
文庫『手紙』はうちの本棚にあった。ぼくの家族のだれかが読んだのだろう。相次ぐベストセラーなのはなぜだろうと読み始めたら、水準の高さにあらためてびっくりした。
『手紙』にはジョン・レノンの名曲『イマジン』が通底音にながれている。犯罪者を兄に持つ主人公をよく理解する男女の存在が救いになっている。
ラストの急展開は想像できなかった。主人公が勤める会社の社長は魅力ある大人だった。周囲の人物の造形にまで言及したくなるのも、その物語の完成度が高いからだろう。
すぐに新刊の『新参者』も一気読みして、東野ワールドの幅の広さ、各作品の中身の深さをかみしめ、うれしくなった。
筆者は大阪府立大学で電気工学を学び、デンソーの技術者だった。現実に即したわかりやすいシーンの中から、ぼくの想像をはるかに上回る物語を紡ぎだしてくれる。その才気を味わうのに、遅すぎることはないだろう。読めていない作品はまだまだある。