どろどろした男女の機微にはらはら
(文春文庫、初刊は1984年)
このまえの用心棒日月抄シリーズの第三弾『刺客』の解説を常盤新平氏が書いていた。その文章の最後の方にこうある。
藤沢周平氏の代表作である『海鳴り』をなんど読みかえしたことだろう
この作品の主人公は剣客でも武士でもない。たたきあげの商人だ。なのに相手には、用心棒日月抄の佐知のような女性が「おこう」の名で出てくる。
青江又八郎と佐知の関係に比べて、はるかに現世的でいま風である。男女の機微はもっとどろどろしていて、周辺も含めて人間関係も濃密である。
これだと最後はどうなるのかとはらはらしながら読んだ。ハッピーエンドだったのが意外だった。
それにしても男も女も、ある意味でこんな身勝手な人がいるだろうか。それをなんとも上手に文章だけで描けるものだと、ほとほと感心してしまう。