アカデミーの作品賞 サイレント「だから」
(ミシェル・アザナヴィシウス監督、公開2012年4月、DVD)
1時間40分と短いのに、映画の面白さがぎっしりと詰まっている。昨年の米アカデミー賞の作品賞。サイレント映画なのになぜ作品賞かと思いながら観たら、わかった。サイレント「だから」だったのだ。
主演のフランス俳優ジャン・デュジャルダンが素晴らしい。顔の表情、動き、仕草…。サイレント映画のスターから没落していく様、若手女優に魅かれていく中年男の心模様が、声は聞こえないのにしっかりと伝わってくる。
そうか、言葉も大事だけれど、言葉がなくても大事なことは表情で伝えることができるのか。政治や経済は無理かもしれないけれど、生身の人生の大事は言葉にはない、ということかもしれない。
監督も主演もみなフランスで活躍するフランス人である。彼らが1920年代の米ハリウッドを舞台にしたサイレント映画を撮り、その作品にハリウッドはアカデミー賞を贈り返す…。世界の映画人はみな、国境を越えた映画愛で結ばれているらしい。