8 街歩き 建築を味わう

大阪『グランフロント』『中の島フェス』『ハルカス』

ここまで突っ込むのか 大阪人の気概

 お盆休みに大阪に出かけ、梅田の「グランフロント大阪」、朝日新聞社の「中之島フェスティバルタワー」、近鉄の「あべのハルカス」の巨大再開発3件を1泊2日で妻と観て回った。

 ぼくは名古屋の街の変遷を建築学生や記者の目で体験してきた。いまは不動産担当として都心の再開発計画を担当している。その立場から見ると、大阪人の元気の良さ、リスクを恐れない気概と気質が強く印象に残った。

 一部のオフィスにはまだ空室がかなりあるが、立地がいいので5年から10年たてばなんとか埋められるとの読みはあるだろう。それでも大阪人は多少のリスクがあってもここまで突っ込めるのかと驚いたのである。

 名古屋でも駅前では巨大ビルがこれから何本か建つが、名古屋経済圏の規模やリニア新幹線開通見通しを考えれば、突出感や無理感はない。むしろ遅すぎるくらいだ。その分、大阪には「背伸び」を感じた。大阪らしいな、とも。

■グランフロント 北棟に魅力

 梅田駅の北、貨物ヤード跡地の東側を利用した超大型再開発である。

     ▲メモ帖から

 2006年に事業提案した大林・地所、竹中・日建の提案をひとまとめにして12社が参画する企業集団ができた。設計は、南棟を地所設計、北棟を日建が主導し、ゼネコンが実施設計で支える形になった、と聞く。

(▲ビルイン通路)

 リーマンショックを挟みつつ、なんとかことし4月に開業にこぎつけたが、オフィスの入居が不調でビジネス的にはまだ先が思いやられると見た。

 大阪駅から南棟、北棟へと商業フロアを往復し、造りとデザインに特化して見て回ると、北棟の内部が気に入った。

 内部通路とアトリウム、エレベーターやエスカレーターを含めた構成は、回遊する人を飽きさせず、ビルイン街路の新しい形を巧みに演出している。通路に面した壁や柱には、黒を基調としたレンガや石、鋼板などを組み合わせて単調さを排除し、表情豊かにつくってある。ところどころに赤をポイントに入れ新鮮さもある。外光取り入れや屋上庭園もしっかり作り込んであった。

 南棟の街路は、規模が北棟よりかなり小さいこともあるのか、つくりの表情が硬くて、やや窮屈にみえた。

 オフィス入居は、テナント案内板を見る限り、タワーCは2社のみで、タワーBもかなり空いていた。

 商業の店舗ラインナップはまずまずだが、飲食は期待したほどではなかった。ぼくらのような熟年夫妻には残念ながら、味も雰囲気も物足りなかった。

 インターコンチ 見晴らしはいいけれど
▲ロビー

 グランフロントの上のインターコンチネンタルホテルに泊まった。メーンロビーは北棟タワーCの20階にある。

 もちろん見晴らしはいいが、ロビーそのものには期待したほどの高級感やハイセンスは感じない。

 特に天井が貧弱だ。飲食系のフロアとロビーのつながりもいまひとつに思った。同じビルインの高級ホテルなら、東京のリッツカールトンのロビーの方が濃密で充実した空間だと思う。

 まとめる苦労 しんどさ想像できず   

 これだけの巨大複合ビル開発になると、どれほど多くの関係者がかかわってきたのだろうか。それをまとめあげたデベロッパーや設計の人たちの苦労と時間は、ぼくの想像では及ばないしんどさだったろう。

 見た目だけの印象なら、このように無責任に簡単につづれる。しかし採算も含めたプロジェクトの成否という観点になると、行政や参加各社への幅広いヒヤリングと検証、10年スパンの時間軸が必要だろう。

 ◇古びない格好良さ 梅田スカイビル
▲梅田スカイビル

 余談になるが、実はいちばん驚いたのは、インターコンチの20階ロビーから真正面に見えた梅田スカイビルの恰好よさだった。ホテルカウンターの後ろ、西向きの大きな窓ガラスの向こうに、あの白っぽい空中展望台と、それを支える東西タワーの青っぽいカーテンウォールが輝いて見えた。

 1993年の完成から20年も経っているのに、まったく古びていない。外観デザインは最新のグランフロントよりもエッジが効いていて、斬新さを失っていない。

 単なるぼくの好みや審美眼の問題だろうか。ひとりの建築家が主導した設計と、組織設計事務所による集団的設計の違いなのか。開発経過と資金の出し手の構成や意向によるものか。あるいは原広司さん恐るべしといった個人の資質が大きいのか。議論が別れるだろう。

 ■中の島フェスティバルタワーとホール

 ホールではその日、森山良子コンサートが予定されていた。こけら落とし直後で人気が高かったので、ホールのネット会員になってアクセスし、ボックス席を2枚確保していた。1階から大階段を上ってホールに入った。

 ぼくらの席は全2600席のうちでもかなりよい部類に入るのだろう。左右の席との間が広く、それぞれの椅子には固有のひじ掛けがついていた。

◇伝統と格式 流石のこだわり

 シートの色使いから内壁や天井の素材とデザイン、照明にいたるまで、入念に検討され、できる限りの予算と情熱を注ぎ込んだという印象を受けた。ぼくは旧ホールを体験したことはないけれど、空間の質を継承するだけでなく高めたいという熱意も濃厚に受け止めた。

 コンサートが始まってからは、音の良さも感じた。広がり方か心地よく、しかもどの楽器もよく聴こえる。比較先はぼくが経験した名古屋のホールしかないが、今まで味わったことがない水準に感じた。

 そうしたすべてから、一流の音楽ホールの伝統と格式を守ろうという朝日新聞社の気概が伝わってくる。流石である。うらやましくもあった。

 ホール内部以外の印象を箇条的に書き出すと次のようになる。

  • 1階ロビーから2階へつながる大階段も大きな見せ場になっている。えんじのじゅうたんと両側の大きなレンガ壁との対比が目を引く。一方で階段幅が広すぎるのか権威的な印象も強く、あたたかみに乏しい感じも残った。
  • エスカレーターで導かれたホールホワイエは、天井からつるしたライトで星空のイメージと静寂、本番への期待感を醸成していた。外壁スリットは垂直性を強調している。その一方で単調さはぬぐえない。堂島川と渡辺橋側に開放部を設ける手はなかったろうか。イイノホールやヒカリエのように。
  • 全体の構成として、大ホールへのアプローチを1階正面に置いた場合のデメリットも感じた。賑わいの視点からだ。1階ロビーと大階段に多くの人が集うのは開演前の1時間くらいだろう。公演が始まれば観客は客席につき、終われば大半が通り抜けて帰ってしまう。それは百も承知で、名物ホール継承ありきでビルは計画されたと思われる。ホール名を新ビルの名前につけたぐらいだから、建築的にもビルの顔とすることにためらいはなかったのだろう。
  • 低層部と高層部の間にあるオフィスロビー階も見どころだった。高層部を支える太い柱が斜めに走るメガストラクチャアが空間を支配している。躍動感がある半面、少し持て余し気味で、アウトオブスケールかもしれない。
  • 朝日新聞社は道路をはさんで西側にウエストタワーも建設中だ。もとのビルのテナントを誘致できたイーストと違って、今度はゼロに近いところからのテナント探しになると聞く。グランフロントの空室を見た後でもあり、同業である新聞社の同じ不動産担当として、無事に埋まるのか心配になった。

 ■あべのハルカス

 とにかくこのネーミングがすばらしい。語感がいいし覚えやすい。ひらがなとカタカナの組み合わせもさわやかだ。古語からとったハルカスの意味も語感から受ける印象と近いし、日本一の高さ300mにふさわしい。新しいタワービルの名前としては、ぼくの中では断トツのベストワンだ。

▲ハルカス内部

 それにしても巨大で複雑なプロジェクトである。駅のプラットフォームを付け替え、もとの百貨店を残しながらの難工事だと聞く。

 6月に低層階の百貨店が先行開業していた。上層階に新たに設ける美術館やホテルやオフィスは、来年春までに全面開業する。

 ここは大阪の電車交通網では南の重要な結節点になる。それでも名古屋でいうと駅前や栄ではなく、金山や大曾根のイメージに近いと感じる。

 はたしてこれだけの巨大なビルのオフィスを埋めるだけのテナントが集まるのだろうか。飲食や泊り客がやってくるのだろうか。梅田や中の島との競争も激しくなるだろう。近鉄の思い切った不動産戦略を理解するのは、名古屋からの目線では無理なのかもしれない。

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