2 小説 物語に浸る

葉室麟『川あかり』

こんな男 いたらすぐ好きになる

(双葉文庫、初刊は2011年1月)

 最近読んだ3作『蜩ノ記』『花や散るらん』『いのちなりけり』に比べると、うんとタッチが明るい。しかもユーモアもいい塩梅に混ぜてある。

 主人公を取り巻く人物も多彩なのに、それぞれが抱える重たい過去もしっかり読み取ることができて、読後感はいちばんいい。

 それにしても主人公の伊東七十郎の武士像がおかしくて、せつない。藩でもっとも臆病なのに、武士としての覚悟とか意地、倫理、矜持、プライドも同居している。こんな男、いるわけがないと思いつつ、もしいたらすぐ好きになって助けてやるだろう、なんて気持ちになる。

 時代小説の主人公が武士の場合、多くは剣の腕が天下一品という設定だ。負けることはない。その安心感があるから安気に読めた。だがこの七十郎はどうだ。生真面目さと矜持だけが光り輝いている。それがまたぐっとくる。

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