2 小説 物語に浸る

堀田あけみ『花くらべ』

宗春時代の機微 ひらがな尾張弁の美しさ 

 (日経文芸文庫、初刊は1998年4月)

 筆者とぼくはある在名の民放ラジオ局の番組審議委員を委嘱されている。9月の審議会でお会いした時、ご本人から「時間があったら読んでください」とほかの委員と一緒にいただいたのがこの文庫本だった。

 帯に「時代小説デビュー作」とあり、驚いた。解説の中で大矢博子氏も触れているけれど、筆者の作品としては『1980アイコ 十六歳』があまりに有名で、その後も若い現代女性の青春小説を得意とされてきたと思い込んでいたからだ。

 さっそく読んでみて、また驚いた。宗春時代の女性たちの機微が、60を過ぎたぼくでもわかるように、見事に短編に切り取られている。

 作品の舞台は遊郭であったり、武家であったり、商家であったりと多彩だ。それぞれの空間で流れていたであろう、尾張名古屋の宗春の時代の空気と、女性たちの心情をていねいにすくい取っていく。

 見逃せないのが尾張弁だ。京から流れてきた遊女の京ことばと対比してみたり、織り交ぜたり、すべて尾張弁であったりと、見事としかいいようがない。ひながなでつづられた尾張弁のなんと美しいことか。

 ぼくが時代小説を好きになったのは50歳を過ぎてからだった。その世界の佳品を筆者は30代半ばで書いてしまっていたとは―。すごい、参りました。

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