警察官の使命 官僚組織への嫌悪
(光文社文庫、初刊は2012年1月)
新宿鮫シリーズは2年前に第10巻まで読んだ。その後にこんな短編集が出ていることを本屋さんで見つけて、うれしくなった。これも、最近よく耳にするようになった「スピンオフ」と呼ぶのだろうか。
登場するのは鮫島の周辺の人物だ。いずれもシリーズでは馴染みの人たち。彼らの人生と、彼らから見た鮫島の様子がお話になっている。唯一、鮫島の目線による短編もあるが、自分のことは多くは語られない。
貫いているのは、このシリーズを通じた鮫島の信条と価値観である。いうまでもなく、ひとつは警察の仕事への強い使命感と自己犠牲と努力を惜しまない姿勢だ。もうひとつは大きな組織や官僚社会への強い拒否感と嫌悪感。心情的には理解ができても、凡人には実行が難しい。だから小説になりうる。
ストーリー作りのうまさ、鮫島像の維持と強化…。あらためてプロの作家の技を味わった。
鮫島の父が新聞記者であるというのは、筆者の投影だろうか。筆者の実父は中日新聞社記者だったと先輩から聞いた(自分で確かめたことはない)。