2 小説 物語に浸る

東山彰良『流』

熱量あふれる人物造形 ルビ生かした表記も新鮮

 (講談社、2015年5月)

 ことし前半の直木賞だ。新聞・ラジオの書評がすこぶる良かったので、久しぶりにすぐに読んでみたくなった。

 設定も舞台もいまの日本ではない。台湾が舞台で、話は1975年から始まる。登場人物もみな台湾か中国の人である。

 文章も独特で、初めて接するスタイルだった。人物はみな漢字で登場し、ルビは「台湾読みのカタカナ」で表記されている。会話の多くは普通の日本語なのだが、重要な表現になると台湾語の漢字のみとなり、その場合はルビに「漢字とひらがな交じりの日本語訳」がふってある。

 この表記はものすごく新鮮だ。台湾と日本との濃厚な関係や、漢字とかなの文化の違いを前提に、台湾での物語を少しでもリアルに日本語で伝えようとしていることがよくわかる。日本語吹き替えの台湾映画が、大事な表現になると突然、日本語字幕つきに変わる感じだろうか。

 筆者は台湾生まれで9歳から日本に移ったとカバーの紹介にある。それを考えれば、ずっと導入したかったスタイルなのかもしれない。

 熱のこもった文章と人物造形に、そうした表現上の工夫が凝らされているものの、祖父やその孫のおとこ気とか、台湾と中国の歴史問題の奥深さをぼくが十分に味わうことができたかというと、正直自信がない。

 筆者はまた、日本語でのミステリー作品でいくつも賞をすでに得ている。この作品でも、後半から徐々にミステリー性も立ち上がってくる。ぼくは台湾でのひと模様に目が奪われっぱなしで心の準備がなく、驚きの展開だった。

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