「芽」と「策」だけでない 「現智の人」も
(新潮社、2016年4月)
ぼくがいま一番信頼できる論者の対談集である。新潮45に随時掲載した6人との対談がまとめてある。
この人の著作ではなんといっても『デフレの正体』(2010年6月)に衝撃を受けた。労働人口減少が「正体」だと公のデータをもとにわかりやすく説いてくれた。賞賛すべきは具体的な処方箋も提示したことだ。所得を若者に、女性を職場に、日本に観光客をー。後のふたつは実現しつつある。
2番目に読んだ『里山資本主義』(1013年7月)は、もっと処方箋に踏み込んでくれた。木くずを使ったバイオマス発電などの紹介事例は、既存の基幹産業や資本主義に置き換われるわけではない。あくまでサブシステムとして田舎や地方で機能させて「安心回路」にしようと提言している。
今回の対談のテーマは、危機に瀕しているとされる「林業」と「漁業」、空き家が急増している「都市の再生」、学級崩壊が叫ばれている「教育現場」、予想通りに進行する「高齢化社会」などだ。いずれも前の2冊で取り上げてきたテーマの延長にある。
もちろん、選んだ対談相手の生き方も大きなメッセージになっている。紹介される活動も言葉もみな魅力的だ。へえーっ、この世界にこんな面白くて元気な人がいるのだ、と将来に向けてポジティブになれる。
筆者は対談した6人を「現智の人」と表現している。特定分野の「現場」で実践を重ねて確固たる「智慧」を確立した人のことを指すのだろう。直前の対談集『しなやかな日本列島のつくり方』から使っている造語らしい。
一連の著作や対談集からは、筆者が「頭でっかちな評論」に終わることを嫌っていることがわかる。きちんとしたデータや現場事例をもとに問題解決の芽を見つけようとしている。「芽」を見つけるだけでなく、その先の「解決策」や「解決人」も同時に提示しているところが、いちばん信頼できる理由だ。