還暦女性のリアリティ 同時代感覚で浸る
(新潮文庫、初刊は2005年4月)
もう十年も前に出た本である。読んだはずなのに、筋をおぼろげに覚えているだけだったので、本棚から取り出して再読した。
登場人物たちの設定がなんと、ちょうどいまのぼくや妻とほぼ一緒である。自宅で急死する夫は63歳、主人公の妻の敏子は59歳。妻の友人たちは高校の同級生だから、ほぼ同年代である。
加えて筆者は1951年の生まれだから、ぼくよりひとつ、妻よりふたつ上である。しかも金沢市の生まれだから妻と同郷だ。そうした同世代感覚に最近ことのほか敏感になっていて、作品選びのポイントにもなっている。
小説では敏子は、夫の死後になってから愛人がいたことを知る。何も気づかずに暮らしてきた―。そこからの敏子の心と行動の変化がこの作品の主題だ。
作家の描写力、とくに還暦手前の女性たちの頭の中や考え方、会話がすごい。そこにあふれるリアリティには恐れ入る。
小説の面白さを堪能できた。現代の「定年小説」ではベストだ。