8 街歩き 建築を味わう

モザイクタイルミュージアム

土俗性と愛嬌 ひと目見たら忘れられない

 (岐阜県多治見市、2016年6月完成)

 旧笠原町の山あいのなだらかな斜面でこの建築の前に立った時、外観の土俗性と愛嬌に圧倒された。ひと目みたらだれも忘れられない。地場産業モザイクタイルと土の本質を藤森照信氏の流儀で表現するとこうなるのだろう。

 モザイクタイルは装飾品であり、もの自体は硬い。その美術館となると常識的には、外観に曲線を使うことはなさそうだし、外壁にはさまざまな色や形のきれいなタイルが張りめぐらされていることになりそうだ。

 ところが藤森氏は、外観は「粘土の山」を想起させるようなゆるやかな曲線の屋根を持ち、屋上にはやはり植物をまとわせた。壁は土で塗り素人のコテ跡を残し、はめ込まれているタイルも割れた後のかけらばかりである。

 それはないでしょう藤森さん、と突っ込みを入れたくなるのではと初めは思ったが、内部を観終わるとそんな違和感はまったく残らなかった。モザイクタイルの本質は模様や色や形にはない、もとになる土の中にある、すべては土から生まれてきたのだ、という意図をぼくは感じた。これは建築の力でもある。

 もともと藤森氏は、建築の歴史の研究だけではなくて、自らも建築設計を手掛け始めたころから、自然の素材を大胆にに取り入れる手法は一貫してきた。ぼくが実際に見た建物でも、茅野市の「神長官守矢史料館」や「高過庵」、近江八幡市のたねやグループの「ラ・コリーナ」、愛知トリエンナーレで観た「空飛ぶ泥舟」…。うーん、筋が通っている。

 展示内容だけならINAXライブミュージアムのタイル博物館(常滑)がうんと上だろう。でも建築の魅力なら、断然、多治見に軍配をあげたい。

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