2 小説 物語に浸る

池波正太郎『鬼平犯科帳 決定版1-3』

不幸な出自 青春の無茶 人情と色気の源

 (文春文庫、文庫化1974年12月)

 池波作品の中では『剣客商売』がいちばんだと思っていた。3年前に読み終えた時からの確信だった。この『鬼平』はテレビ化され何度も再放送されているが、平蔵役の歌舞伎役者があまり好みではなく、原作は敬遠していた。

 ところが、現代版ハードボイルドの逢坂剛が2010年ごろから時代小説を書き始め、なんと、長谷川平蔵を題材にして『平蔵の首』を書いていた。さらにその平蔵は江戸時代に実在した人物であったことも知って、驚いた。

 そこへもってきて今回の「決定版」の発行である。活字が大きくなり、装丁も一新された。カバーには平蔵のイラスト画があしらわれ「国民的時代小説がついにテレビアニメ化!!」との見出しが躍っている。

 イラスト画の平蔵は、テレビの歌舞伎役者よりうんと若い。原作を読むと平蔵はまだ40代である。その年代ですでに「鬼」と呼ばれている。恵まれたとはいえない生い立ちや若い時分にはずいぶんと無茶をした体験が、義理人情やユーモアの源泉になっていることがわかってきて、引き込まれた。

▲ 本棚の池波コーナー<2020年9月撮影>

 『剣客』も『鬼平』も、懐の深い男を描いていて不思議な色気があり、男として元気が出てくる。同じ時代小説でも、藤沢周平はリリシズムが心に染み入ってくる。このふたりに比べると、ずっと読み続けている佐伯泰英はまだ深みが足りない感があるが、活劇感とわくわく感はたっぷりある。みんな違って、みんないい。

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