「空き家」を多角的解剖 出口はどこに?
(講談社現代新書、2016年11月)
簡潔なのに、問題の本質をついた見事な題名である。しかも副題には「住宅過剰社会の末路」とある。日本の住宅、空き家問題に抜本的解決策はあるのだろうか。
最初は新聞の書籍広告で「5万部突破」という惹句を読んで「こんなテーマの本が5万部も?」と驚いたのが、読みたくなった理由だった。
本屋さんをのぞいた時には題名を覚えておらず、コンピュータ端末で「空き家問題」と探索したら、画面に20冊以上も出てきて、また驚いた。空き家問題やマンション老化問題を論じた本はいっぱい出ているのだ。
つまりこの問題は、とても多くの専門家がすごく心配しているのだ。買い手、売り手だけでなく、行政の人たちも。それなのに、新しい賃貸住宅は郊外にもなおつくられ、都心の超高層マンションは売れ続けている。
この本はそのあたりの背景をうまくまとめている。要点を抜き出すと―。
■買い手サイド
- 田舎から都会への流れやまず
- 小家族化
- 中古は品質保証に不安
- 売り手の広告上手に乗せられて
- 古いものより新しいものに価値を感じる
■売り手サイド
- 新築で打った方が「手離れ」がよい
- 「土地を仕入れて新築」がカネもヒトも回るシステムができあがっている
■オーナーサイド
- 土地を賃貸に回した方が何かと有利な税制度
■行政サイド
- ほかの市町村から奪ってでも人口を増やしたい
- 住宅用に規制緩和
これだけみても、空き家問題の根っこはこれだけ多方面に広がってしまっている。だから解決策も、あの手この手の「絡め手」しかないのだろう。
文明論的な視点でいえば、日本の高度成長期以降に繰り返されてきた「住宅産業を軸にした成長」は、もはや”神話”になっていて、逆に実害を生みつつある。
となると、社会や経済が価値観を「蓄積」や「継承」に見い出す方向に変容するしかないだろう。建築や不動産の業界が窒息しない手立てははたして、あるのだろうか。