真面目で硬い話がいま漫画で読まれとは
(マガジンハウス、2017年)
吉野源三郎が1937(昭和12)年に書いた原作の小説の文庫版が本棚にあるが、悲しいけれど、ぼくには読んだ記憶がなかった。羽賀翔一作画のこの漫画がベストセラーになっていると知り、会社の同僚から借りて読んだ。
15歳の少年コベル君は、友人とのつきあい方に迷い、先輩からいじめられる仲間を見ながら守れなかったことを悔いるなど、悩みが深い。それに答えて、おじさんがつづるノートの内容もこれまた、一直線の内容である。
読み終えた第一印象は、こんなにも真面目で硬い話がどうしていま読まれるのだろう、だった。
いまから80年も前の哲学をベースにした小説がもとである。昭和12年といえば、盧溝橋事件が起きて日中戦争が始まった年だ。あのころ知識人はこんなにもストレートに深く人生について考えていたのだろうか。コペルニクスとかナポレオンとか、おじさんの語る例もスケールが大きい。
朝日新聞の全面広告に載った林真理子のひとことに同意する。
こんなに真面目な本がこんなに読まれるなんて、日本も捨てたもんじゃないと思った。
昭和12年の再現にはつながらないと信じたい。