矜持と孤高の探偵 知性秘めて毒舌と喧嘩
(早川書房、2018年3月)
この作家の作品はほんとうに久しぶりだ。私立探偵、沢崎シリーズの最新作である。帯にはなんと、14年ぶりとある。
独自の生き方や矜持を貫く孤高の探偵、毒舌と知的な言い回し―。前作のスジはほとんど忘れてしまっているが、そのテイストは健在である。
根は知的でありながら、相手にけんかを売りつつ調査を進めていくところは、大好きなロバート・B・パーカーが描く探偵スペンサーとそっくりである。舞台をボストンから新宿に移しただけとけなしたくなるが、スペンサーの美食家ぶりとか恋人スーザンのような女っ気をちりばめることはない。
そこはこの作家の持ち味だろう。人の道理や義理、筋道に頑固なところが原ハードボイルドの根っこなのだと思う。
それにしても、かなり複雑なプロット構成である。依頼人が何者なのかは、最後の最後までわからない。多くの場面をともにする若者の本性の種明かしも、ラストまでもつにもつれる。飽きなかった。
ただひとつ、電話での会話が多すぎる気がした。それに使うのは普通の電話だ。ケータイを持たず、パソコンもやらない。時代遅れの私立探偵…。われらが沢崎にはこれからも、新宿に居場所があるのだろうか。
ぼくの本棚の原作品はこれで5冊となった。寡作なので、次の新作も息長く待ってます。