人間営為の虚しさ IT社会からませて
(講談社、初刊は2019年)
早大卒の39歳、IT企業の役員、ビットコイン…。第160回芥川賞の受賞者を紹介する新聞記事に触発されて、作品を収録した月刊文芸春秋を買った。
読んでみると、ていねいに文字を追っていくのが、ぼくにはしんどかった。
i-phoneとかlineとかGoogleというなじみの横文字がそのまま出てくるのにまず戸惑ってしまった。後になって少しずつ、当然だけど筆者は、違和感を恐れず意図的に使っているのだろうとは思えるようにはなった。
それでもこれが純文学になるのだろうかと、ごく正直な疑念をいだく、昔気質のぼくがいる。
選考委員の選評や筆者インタビューも読むと、この作品が捕まえたかった感覚がおぼろながらわかったきた。
バベルの塔や失敗した飛行機の挿話に、現代IT社会の象徴でもあるビットコインをからませながら、人間の営為のむなしさや、そうしたことへの愛惜を描いている―。そのあたりが、教科書的な、あるいは新聞的な「まとめ」になるらしい。
うーん、恥ずかしながら、作品そのものからそこまで読み取ることはできなかった。やはりぼくには、芥川賞をなるほどと味わうのは無理な年代になったらしい。そんなことをあらためて実感してしまった作品だった。