17年ぶりに再読の「純愛」
(文春文庫、単行本は2008年8月)
なんと17年ぶりの読み直しである。葉室麟が2012年に直木賞を得た「蜩の記」を読んで、年齢がひとつ上で元新聞記者のこの作家に惹かれ、次の一冊に選んだのがこの本だった。ブックカバーには、2009年に初めて直木賞候補になったとある。
美しくて学もある咲弥(さきや)と殿人(とのんど)という無骨な大男の武士が主人公だ。咲弥は初婚の夫を病で失い、再婚相手に殿人が選ばれる。初夜の寝床で咲弥は「心に残る一首は?」と殿人に尋ね、殿人は答えられず、そのまま寝所をともにすることなく16年が過ぎる、という設定である。
この夫婦のやりとりの前後には、幕府や朝廷や地方藩のそれぞれや、その関係の中でさまざまな陰謀がうずまく。登場人物が多いうえに、小説に登場する名前がフルネームあり略称ありでなかなか頭に入りづらい。だから筋を追うのにも少し骨がおれる。これは、これまで読んできた葉室作品に共通する特質のような気がする。それをフォローしていくのが面倒になると、大事な人と人のつながりをも読み飛ばしてしまうことがある。
17年をへて今回読み直してみて、せっかくの咲弥と殿人の「純愛」というテーマが、この特質によってぼけてしまっているような気がした。ぼくは葉室作品の大半を読んできたから、熱烈なファンといってもいいだろう。それゆえに批評目線が厳しくなっていて、余計にそう感じたのかもしれない。