弱さ 憎しみ 妬み…最後はしんみり
(講談社文庫、初刊は1979年)
葉室麟と藤沢周平を交互に読んできて、同じ時代小説でも、藤沢はまったく異次元の小説世界に達していたのだと痛感せざるをえない。
この短編集は、どの登場人物も弱さをかかえ、憎しみを隠し、なんとか毎日を生きている感がある。貧しさや嫉妬や妬み…。人生をくさらせ、つらいものにしていく要素がいっぱい出てくるのに、最後はしんみりと終わる。スキのない構成と過不足のない描写。ほとほと感心する。
ぼくがいちばん好きなのは『遠方より来る』だ。主人公の夫婦は、招かれざる浪人の居候に悩み、右往左往する。しかし浪人の中年男との間にはしだいに友情が芽生える。中年男がいさぎよく立ち去るラストは、思わず、男はこうこなくっちゃ、と思えてきてうれしくなる。
と思えば、女の意地悪さがテーマの短編もある。女の人をこんなにあしざまに書かなくったっていいのにと、藤沢の女性を見る目の厳しさにツッコミを入れたくなるときもあった。そんなときは、葉室小説にはこんな女は出てこないから安心だ、などと、ぼくはぼくにつぶやいていた。