毒や批判は薄め いつもの三谷喜劇
(三谷幸喜監督、公開2019年9月)
三谷監督の最新作である。中井貴一が演じる首相が、頭に当てられた石で記憶を失ってからのドタバタ劇だ。名駅のミッドランドシネマで妻と観た。
まずは役者の個性と演技力、キャスティングが最大のつっこみどころになった。やはりうまいなあと感じたのは中井貴一、ディーンフジオカ、お手伝い役の斎藤由貴、石を投げた大工といった面々か。吉田羊もまずまず。
ちょっとなあ、は首相夫人。存在感やイメージが役どころとずれているように思えた。こういうのをキャッティングの失敗というのだろうか。小池栄子はちょうどいい味をだしていたように思う。
さて作品はというと、全体としてぼくはやや不満が残った。首相官邸とその周辺を描いていて、設定も十分に面白いのだが、きわどい喜劇の割には毒が薄すぎる。だれかを痛切に批判しているわけではない。モデルとなったらしい人物は浮かぶものの、直接的にも間接的にも、映画人から観た批評や批判の域には達していないのではないか。安倍政権はいくつもの問題を抱えているのに、いつもの三谷喜劇で終わってしまった感がある。
三谷監督はそのあたり、割り切ったうえで作ったのだろう。せっかく首相官邸を舞台にしたのに、もったいないとぼくなんかは思ってしまった。チャップリンの世界からはとても遠いなあ。