刑事もの久々堪能 はみ出し男の造形さすが
(光文社、初刊は2011年6月)
このシリーズの主人公である鮫島刑事、恋人のシンガー晶、上司の桃井課長のトライアングルは盤石で、安心して読み継ぐことができた。
しかしなんと、桃井課長がここで死亡するとは思わなかった。さらには、晶との「別れ」も同時にやってくるとは。
ヤクザの売人がいてオカマやムショ帰りも絡んでくる。社会からはみ出た人物の造形力は、やっぱり大沢ならではだなあ、とあらためて脱帽だ。
久々にハードボイルド、刑事ものを堪能できた。ご飯を食べたり、新聞を読む時間も惜しみながら没頭して、上下二段の長編を読み切った。
あらためて本棚を確かめると、新宿鮫シリーズはすべてあった。直木賞の4作目『無形人形』が読売だったり、8作目の『風化水脈』が毎日だったりと、マスコミに知り合いが多い筆者らしい。
恥ずかしい話だが、この最新作でも過去の事件に言及する場面が出てくるのだが、覚えていないことが大半であぜんとした。新作でもいろんなタイプのヤクザやその取り巻き、刑事立ちが登場し、名前を覚えきらないまま物語のスピード感に乗せられて読み進んだ。ぼくのボケが進んだのか、物語の力か。
この作品の初出は「ほぼ日刊イトイ新聞」に2010年から2011年にかけて連載したそうだ。ネットで先に公開連載してから単行本にし、そして今回のカッパ・ノベルス化+電子書籍化である。こちらも、この筆者らしい試みだ。