声高にならず 戦時下の暮らし細やかに
(片淵清直監督、2016年11月)
第二次大戦が始まるころに広島から呉へと嫁いだ主人公すずを通して、戦争中の庶民の暮らしや原爆投下を細やかに描いている。
アニメーションという表現は、同じ昨年に大ヒットした『君の名は。』のように、超現実的な世界や幻想的な場面を描きやすい。
このアニメ作品はそういう指向性は極力抑え、実写では再現が難しい場面でもアニメなら再現しやすいという特性をたくみに生かしている。モノが不足する不自由な暮らしの中でも工夫しながらたくましく生きていく主人公の内面までも、アニメ画面を通して伝わってきた。
従来の戦争映画では、内地限定の話であっても、もっと過酷な体験をした人々を描いて戦争の実態を伝えようとする作品が多かった。この作品では声高にではなく、とても静かに、戦争下の暮らしの日常を伝えていると思う。それはタイトル『この世界の片隅に』にもあわわれている。
2016年の映画は力作やヒット作が多かった。キネマ旬報のベストテンはどうなるか注目していたら、この作品が1位で『シン・ゴジラ』が2位。同じアニメでもっと観客動員が多かった『君の名は。』は10位以内には入らなかった。3-10位の作品をぼくは観ていないので論評する資格はないけれど、正直、ランク外というのはちょっと解せない。