手あか文句 「暗黙の了解」にナイフ
(朝日出版社、2015年4月)
サブタイトルが「言葉で固まる現代を解きほぐす」。新聞の書籍広告を見た時から気になっていた。帯には「決まりきったフレーズの連発が硬直させる現代社会の症状を解きほぐす」とある。
確か10月末に新聞で、この本が、藤原新也が審査員をつとめる賞を受賞したという記事を読んだ。筆者は授賞式のあいさつでこう述べたという。「安倍首相に感謝したい。紋切型のフレーズを国会や演説で連発してくれたから」。これは面白いと、ますますこの本が読みたくなった。
使い古された「言葉」や「フレーズ」が持つ共有観念について、そういわれてみれば、という発見や考察の連続だった。これからはぼくも使いたくないなあ、というフレーズがたくさん出てくる。
- 「育ててくれてありがとう」
- 「若い人は本当の貧しさを知らない」
- 「全米が泣いた」
- 「国益を損なうことになる」
- 「うちの会社としては」
- 「誤解を恐れずに言えば」
- 「逆にこちらが励まされました」
筆者はそれらのフレーズに込められた「常識」や「暗黙の了解」に徹底的に切り込み、異をとなえていく。その論調は小気味よい。
時には、ぼくには鋭すぎた。60歳を超え、それらに類する言葉を使ったこともたびたびあるから、読んでいるのがつらいときもあった。
■新世代の論客が登場か
筆者は1982年生まれだからまだ33歳。しかもこれが初の著作になるという。それゆえ気負いもあるだろう。もともとの気質もあるのだろう。自分の物差しへのこだわりが極めて強く、とても理屈っぽい。
ただこの本が疑問を投げかけている先は、よく耳にするフレーズに込められた「常識」と、それを許容する社会に対してである。「鋭さ」も「自分の物差しへのこだわり」も、それがなければこの本にはならなかっただろう。
『永続敗戦論』の白井聡氏(1977年生まれ)に次ぐ、若い世代の論客の登場を感じる。現代社会への独自の感覚と、それをしっかりと説明できる自分の言葉を持っているから。