手口と心理に肉薄 ハードボイルドの香り
(河出文庫、初刊は2009年)
会社の同僚が「これ、面白かったですよ」と貸してくれた。前から気になっていた作家であり、作品だった。
読む前は題名の『掏摸(すり)』について、象徴的な意味を持たせているのだと思い込んでいた。ところが中身は掏摸という行為そのものを真正面に扱っている。
その場面だけではなくて、手口や技術や心理まで細かく書き込まれているではないか。それだけで希少な小説なのではないか。
文体や筋立ても、純文学というより、エンタメ系のハードボイルド小説の香りがする。「闇社会の木崎」がその感を強くしているかもしれない。
ただ木崎の登場が突然だったり、主人公の関与の仕方がわかりづらかったりもした。文章も主語や目的語が把握できず、戸惑うところもあった。
枕元において就寝前に読み重ねた。途切れ途切れになったので余計そう思ったかもしれない。集中して一気読みした方が面白い作品だろう。
この作家、執筆した時点でまだ32歳だけど、プロの匂いを感じる。素人にも受ける、わかりやすい情感を伝えるタイプではないだろう。