5 映画 銀幕に酔う

3か国制作『43年後のアイ・ラブ・ユー』

元恋人に記憶の輝きを 70歳の純情

 (マーティン・ロセテ監督・脚本、日本公開2021年1月、ミッドランドスクエア)

(▲パンフレット表紙)

 70歳の偏屈ジジイと、アルツハイマーになって老人ホームにいる元恋人との話である。ふたりは43年前、新進の演劇評論家と人気女優として恋に落ちたが、女優から関係を断っていた。70男は老女に近づき、当時の「輝き」を思い起こさせようと手を尽くすー。『男と女 第3部』と比べつつ、身につまされる展開かとどきどきしながら観た。

 結論から言うと、それほど身構えずに楽しめる、老人たちのラブコメディーだと感じた。ぼくは元記者でまもなく70歳だから主人公に近いけれど、それほど身につまされる展開ではなかった。ひとことでいえば主題は「70歳の純情」だ。

■偏屈ジジイたちの友情 

 前段で面白かったのは、主人公がアルツハイマーを装って老人ホームに入居するところだった。あの病気は意図的に装って医者をだましたりできるものだろうか。専門家からは異論がでるかもしれない。

 もうひとつは親友との友情だった。会えば病気と薬の話ばかりだし口げんかもしょっちゅうだが、心の底では互いを信じ案じている。主人公がアルツを装い入所する計画をたて、親友は「それは犯罪だ」とためらいつつも手伝う。元恋人に昔を思い出させるためのユリの花やガーシュインのCDを、主人公にかわって元女優に送ったりもする。こちらもキーは「純情」だ。

■設定は『男と女』と似ているけれど

 まえに観た『男と女』の第3部は、元カーレーサーが記憶がまだらになり施設に入っていた。その男とかつて親密だった老女が男を訪ねてくる―。今回の映画『43年後ー』とは男女の設定が逆なだけで状況は似ているのだが、観終わった感じはかなり違う。

 『男と女』は1部から主役たちが同じだ。海辺の街での出会いと、若くてきらきらした二人の映像がそのまま3部にも引き継がれた。しかも「シャバダバダー」と、いまもなお輝きを失わない主題歌もついている。

 『43年後―』では、43年前の演劇評論家と女優は、別の若い俳優たちが演じていた。ぼくの目からは、若い女優役に華がなくて、当時の熱愛が43年後も主人公に疼いているという設定にリアリティを感じなかった。

■”老人映画”のリアリティと美
(▲パンフ裏面から)

 元女優を演じたカロリーヌ・シロルという人は、ネット情報では実年齢が80を越えている。この映画では「記憶をなくした元女優」を凛々しく演じ、年齢を越えた美しさを備えているようにぼくには見えた。

 その一方、渋りながらも一緒に観に行ってくれた妻の感想は、案の定というべきか、昨年に『男と女 第3部』を観た後と似ていた。「やっぱり映画館の大きな画面では、若くて美しい人たちをながめて、うっとりしていたいなあ」

 この日に同時に観たのは7組10数人、20代とおぼしき二人連れもいた。「ソーシャルディスタンス」はたっぷりとれていた。コロナ緊急事態宣言下、名古屋駅前の月曜午後でこの観客数…。多いのか少ないのか、ぼくには判断がつきかねた。

 

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