非日常へのアプローチ 圧巻のコレクション
(箱根、2002年9月開館)
親戚のご夫婦との一泊旅行で箱根へでかけ、強羅で落ち合ったあとに、勧められて最初に訪ねたのがこの美術館だった。ぼくは何の予備知識もないままの初めての訪問だった。
かなりの斜面に建物は建っている。ガラスと石とRCを組み合わせた大掛かりなデザインがまず目に入った。アプローチから斜面に沿って中央を貫く階段状の吹き抜けとハイサイドガラスが、訪問者を非日常に誘う。この建築の中でいちばん魅力があり、もっとも印象に残る空間だろう。
アプローチの時からぼくは、個人建築家の設計かなと感じていた。しかし売店で見た建物紹介本で、なんと日建設計と知った。原点は、林昌二がかつて設計した東京・五反田のポーラ本社ビルにあるようだ。この美術館のオーナーはポーラの創業家2代目である鈴木常司氏。彼が林の意匠を気に入っていた、とあった。
ただぼく個人の好みでいうと、箱根の山の中の樹々に囲まれた環境の中で、コンクリートとガラスによる力感構成をここまで見せつける必要があっただろうかとも感じた。もっと箱根の自然と寄り添う意匠や動線もあったのではないか、と。どんな議論がなされたのだろうか。
コレクションはこれを一代で集めたのかと驚くほどの質と量だ。モネやルノワールといった印象派の有名作家からピカソまで、ぼくにもわかりやすく、見覚えのある画風のオンパレードである。だれが訪ねても満足度は高そうだ。さすがは日本の首都・東京であり、奥座敷・箱根の地力である。