4 評論 時代を考える

橘玲『大震災の後で人生について語るということ』

幸福への理論と投資術 震災うけ練り直し 

 (講談社、2011年7月)

 この筆者はとても気になる人だ。作家なのか経済学者なのか評論家なのかフィナンシャルプランナーなのか、いろんな顔を持っている。

 かつて一読して驚いた『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』を発表したのが2002年12月。経済と会計に圧倒的な現場知識を持っていて、儲けることを肯定しつつ、人生や社会へのシニカルな視点も隠さない。出会ったことのない”不思議な同居”に驚いた。「新しい資本論」との評もあった。

 そのあと2004年9月に『雨の降る日曜は幸福について考えよう』、2008年6月に『黄金の扉を開ける賢者の海外投資術』を発表し、ぼくも読んできた。

 それらの本の”芯”だとぼくが思うのは次のようなことだ。

 会社や税制や国家の枠組みには縛られずに、精神と時間の自由をどう確保するかがもっとも大切だ。国境や制度や経済原理を理解したうえでの投資と戦略が必要だー。

 精神的な幸福論だけでなく、幸福に至るための理論と方法論を実利的な視点からしっかりと打ち出し、具体的な投資術まで盛られている。ほかのアナリストや評論家の経済本とは異次元の奥行きがある。

 この本も、東日本大震災の衝撃を真正面から受け止め、過去の著作での見解を「絵空事」と省みながら、あらためてバージョンアップしている。社会に向けて発言してきた著述家として、真摯な姿勢だと思う。

 それにしても長いタイトルの本が多い。古くは植草甚一、現代なら村上春樹を意識しながら、楽しみつつあえて長い題名をつけているとぼくはみる。真相は筆者にしかわからない。

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