6 報道 新聞の先は

NIMRA例会報告「トヨタの今と明日 報道の現場から」

地元紙キャップの見方 社長の思いと将来像

(2012年7月)

 【注】NIMRAはぼくが加入する私的異業種交流会「名古屋国際都市問題研究会」の略。幹事をつとめた2011年4月例会の報告を、講師をお願いした阿部伸哉の承諾を得て公開します。過去の例会報告はHP (http://www.nimra.jp/index.html)でも閲覧できます。

 7月例会は、中日新聞経済部の記者でトヨタ自動車取材班の阿部伸哉キャップから、トヨタ自動車とそのグループがかかえる課題や今後の戦略などについて、取材現場での経験を散りばめながら話をしてもらいました。(文責・団野誠=例会幹事)

 【阿部キャップの講演の要旨】

 トヨタ取材班のキャップになって2年になる。かつて所属した社会部の時は書いた記事に苦情から激励までいろいろと反応があったが、経済記事の場合は、読者からの直接の反響は思ったより少ない。きょうはみなさんとの質疑の中で、トヨタについて読者の関心がどこにあるのか、どんな記事を求めているのかをつかむ参考になればと考えている。

 いまトヨタ報道で露出度が高くなっているのが豊田章男社長だ。創業家の4代目で、56歳。国際C級ライセンスを持ち、自らスポーツカーも運転する。本当にクルマとクルマ談義が好きな社長だ。周辺もそうなりつつある。

 しかしわれわれのような一般紙の経済部記者の関心は、台数や売上高、生産工場など「数字と経営戦略」に向きがちで、「商品としてのクルマ」はあまり突っ込んで書かない。そんなずれが生じている。

 経営戦略で章男社長が好きな言葉は「国内300万台体制の維持」。300万台は1980年代のレベルだが、当時の海外生産は20万台。今は海外生産が400-500万台もあるので、「国内」の意味がまったく違う。だから、トヨタに厳しい見方をする人からは「300万台にどんな根拠があるのか」とか「そもそも300万台維持が可能か」などの疑問が出ている。

 もうひとつ、章男社長がよくいう言葉が「公益資本主義」である。米国を「市場万能の大資本主義」、欧州や韓国を「国家資本主義」と称して反発し、「トヨタの公益」には大企業としての責任や雇用維持、日本発の技術革新などの意味を込めている。

  ご存知のように日本の自動車市場の環境は厳しい。若者にとって1980年代ならクルマは「夢の乗り物」でありえたが、今は労働市場から締め出され、消費や関心はケータイに向かいがちだ。

 章男社長は「悲観論ばかり言っていてもダメ」という。「免許を取ろう」というテレビCMを打ったり、ハイブリッド車の新型やスポーツカー「86」を出したりといろいろ手は打っている。現役社長としては異例だが、日本自動車工業会の会長職を買って出て自動車税と重量税の撤廃に乗り出したりもしている。

  300万台体制を「国内での組み立て台数」として維持するのは難しくはないだろう。しかしこの超円高下で価格競争力を維持しようとすると、部品のかなりを海外から持ってくるしかない。

 ある部品会社トップは「一次下請けは必要部品を海外から輸入してやっていけるだろうが、二次以降には仕事が回ってこなくなる」と話していた。このままだと国内工場の車でも「日本産」といっていいかという疑問もでるかもしれない。

 こうした流れなので「トヨタの明日」は、正直いって断定的にはいえない。いわば気合いで300万台は守るという心意気を評価するのか、一皮めくると二次三次は極めて厳しいという懸念に軸足を置くべきか。いつも悩みながら取材し、書いているというのが現実です。

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