3 随筆 個性に触れる

川口マーン惠美『住んでみたドイツ 8勝2敗で日本の勝ち』

体験論が軸ならこの書名はありか

 (講談社+α新書、2013年8月)

 こういうニッポンほめ本、日本再認識本はこれまでも何冊もあった。しかし「ドイツに8勝2敗」という直截なタイトルには驚いた。筆者が決めたのだろうか。編集者案の場合、筆者は心から了解したのだろうか。

 ひとつの国とほかの国を比較して「勝ち負け」をつけるなんて、できるのだろうか。どの国の制度もインフラも慣習も、長い歴史と経過を経て成立している。そこに暮らす人も、出身地から国籍から価値観までばらばらなのに…。

 そんな頭でっかちな疑問を抱えながら読んでいくと、具体的な比較で驚く指摘は多かった。ぼくが知らなかっただけかもしれない。たとえば―

  • 反原発、脱原発は熟議を重ねた結果だと思っていた。この本では、理性的な判断というより身体的な反応であるように読める。
  • 小学生の早い時期に進路や学歴が決まりチャンスが少ない、とある。
  • 電車は正確だと思い込んでいたが、日常的に遅れているそうだ。
  • 「便利さ」を敵視し馬鹿にしたがる体質がある、との本質的な指摘
  • 長い休暇が逆にストレスになっている、との思わぬ視点

 筆者は現地に30年住み、現地で結婚し、3人の子どもを育てたとある。ぼくはドイツには学生時代の貧乏旅行と、富山県青年派遣団の同行取材で2回訪れたものの、住んだことはない。

 それでもやはり「8勝2敗」は違和感を覚えつつ、もう一度考えた。この本は学者の論文ではない。現地に住んで30年の女性が導き出した個人的結論、という観点を前面に出すならこのタイトルはありなのかもしれない。いや、中身を正直に伝えていてキャッチーさもあるという点では、秀逸な書名なのかもしれない。もし「ドイツに住んでみた 日本人よもっと母国を好きになれ」では、ぼくも読んではいないだろう。

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