2 小説 物語に浸る

葉室麟『花や散るらん』

不思議な夫婦 大胆な仕掛け

(文春文庫、初刊は2009年11月)

 この筆者の作品は、昨年末に読んだ『蜩ノ記』が初めてだった。志の高い武士を主人公とする筆がしぶく輝いていて、「もう一冊」とこの文庫本を手にした。2010年の直木賞候補作と知ったからでもある。

 雨宮蔵人と咲弥という、ちょっと不思議な夫婦を軸に、赤穂浪士の討ち入りを描いている。この構図は藤沢周平『用心棒日月抄』と似るが、青江又八郎は赤穂浪士と直接関わることはない。葉室の蔵人は、京都で大石蔵之助と会ったり、江戸の討ち入り現場に登場したりもする。かなり大胆な仕掛けになっている。

 作品の真ん中にいる蔵人と咲弥は、まず前作『いのちなりけり』に出てきて、そちらが先に2009年直木賞候補作になったと後で知った。蔵人シリーズが2年続けて候補作になり、違う設定の『蜩ノ記』で2011年に受賞した。

 遅まきながら『いのちなりけり』も読み始めた。時系列をさかのぼっている。出会いから読み始めた方が新鮮だろうが、致し方ない。

 国文学者の島内景二氏による解説も充実している。見出しの「心の花は散らず」がにくい。忠臣蔵への思いと小林英雄の指摘の関係、登場する実在人物たちが抱えていただろう「心の花」、葉室麟のペンネームに込められている意味への言及…。なるほどそうだったのか、とうなってしまった。

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