洗練意匠と最新設備 都心回帰の波
(名古屋市北区、2014年3月竣工)
名城公園の東側、絶好の場所にできた最新キャンパスとはどんなものかと注目していた。本格的に学生さんたちが集まり始める新学期前に、ひとりでゆったりと歩き回ってみた。
南北に細長く平坦な敷地である。もとは公務員官舎があった国有地だった。報道では、売却先に中国領事館も候補になったが、日中関係悪化により流れたという経過があった。
新キャンパスは、ほぼ中央に縦長の動線軸を配し、4つの棟が有機的につながっている。学生の大半が北の地下鉄駅を利用すると想定すると、大学キャンパス建築の名作、南山大学に連なる古典的で無難なレイアウトだろう。
建築の素材は鉄、アルミ、ガラス、コンクリート打ち放し、レンガに絞り込んでいる。デザイン的には庇の厚さを極力抑えているのが目についた。軽さとシャープさを出すためか。設計は大建設計。このあたりの作り込みは、経験豊富な組織設計事務所ならお手のものだろう。
各所に配されたサインや看板のセンスもとてもいい。きれいだし、わかりやすい。品格もある。
南端にある食堂とカフェは、内部インテリアも見晴らしも予想以上に立派だった。これが「イマドキの学食」なのだろうか。特に2階のカフェは落ち着きがあってホテルラウンジかと思うほどだった。名城公園が見える屋外のウッドデッキも魅力がある。昼ごはんや夜の一杯にふらっと寄ってみたくなった。
バイトに就活の学生 学び味わう余裕あるか
そんな印象の延長として、学生たちの現状とキャンパス充実の関係を考えると根源的な疑問も生じてきて、少し気が重くなった。
ひとつは、この新キャンパスの水準は、社会人になっても同等の環境で働ける学生はごく一部だろうと思われる高さにあることだ。ここに通う商学・経営・経済の学生たちは、充実した施設を生かして勉強に励めるだろうか。最新の図書館やIT施設を利用しコミュニケーション能力を伸ばせるだろうか。
しかしながら、ぼくが知る限り、日本のどこの大学も学生たちは貴重な4年間の多くを「バイトと就活」に追われ、キャンパスで勉強に没頭できる時間は少ないのでないか。この大学でももしそうなってしまっては、この建築の質ははあまりにももったいない。
そうした懸念は大学運営の人たちも共有されているはずだが、名古屋の有力私立大学ではいま、都心回帰の波が起きている。学生が通いやすい場所に魅力的なキャンバスを新設しているのだ。最大の理由は、少子化に伴い学生の総数が減っていて、受験してもらうためには、魅力あるキャンパスを選択肢として提供する必要に迫られていることにあろう。
そこに学生たちのバイト志向が加わっている。授業や友人との接触とバイトを両立しやすい都心の大学を志向する傾向が強まっている。
さらにもうひとつ、最近は就職活動が3年生から始まるようになって、時間を有効に使うためにますます都心を志向する傾向が強まったときく。
となるとどの私立大学も、学生争奪戦に負けまいとして都市回帰に舵を切らざるをえないのだろう。この大学も4つ目のキャンパスだ。
新キャンパスはどこもきれいで清潔で最新設備をそろえている。それらを見れば見るほど、学生たちとバイトや就活との関係を知れば知るほど、それぞれの大学は学生や日本の将来のためというより、経営的に生き残るための学生集め策という論理もちらちらと見えてしまい、ひどく心配になる。
大学生は国の未来の縮図だ。学生たちが貴重な4年間を質の高いキャンパスで過ごし、施設をフル活用できるようになれば、都心回帰投資は実を結び、日本の未来につながるだろう。学生さんたちがそこで過ごせる時間を長くしてあげる責任は、大人社会と政治にある。