8 街歩き 建築を味わう

シンガポールの「らしさ」

アイデンティティ求め 世界驚かす建築群

 黄金週間を利用して4日間、滞在した。大胆なコンセプトとアイデアとデザインの建築が次々と生まれている。それを実際に建てて勝負しようという決断を彼らはなぜできたのだろうか―。

 ぼくにとってのハイライトは、2010年開業のマリーナベイ・サンズだった。3本の高層ビルのてっぺんに船が置かれている。しかもその船は曲がっている。船の屋上には「水が水平線へと落下するプール」もある―。

 現地を見ただけの判断だが、この国のリーダーたちには「シンガポールのアイデンティティー」への強い渇望があったと感じた。この十数年の成功体験からくる自信がそれを支えている。発注者も設計者も、リスクを取る気概が表に見えないと成功もない、との決意を共有しているようにみえる。

多民族国家 リスク取るエリートたち 

 もともとシンガポールはマレー系、中国系、インド系からなる混成国家で、共通語は宗主国からの英語だ。ぼくがバンコクに1998年から3年駐在した時、年に数回は取材に訪れていた。その時から「自分たちのアイデンティティー、シンガポール固有の”らしさ”を持ちにくい国だな」と感じていた。

 そのことはリーダーたちならもっと意識してきたに違いない。頭脳優秀な若者が多い。米英への留学や、金融・観光業でもまれて育ったエリートほど、これぞシンガポールと誇れる文化や形を求めてきたように思う。

 長く英国の植民地だったから、ラッフルズホテルを筆頭にコロニアル調の建物が遺産としてたくさん残っている。しかし、それらの要素を取り込んで現代風にするだけでは「らしさ」としては物足らない。

 幸いシンガポールは1997年のアジア通貨危機からの立ち直りは早かった。2000年に入るとマリーナベイ沿いに高層ビルをいくつも建てた。ビジネスセンターとしての地位を着実に高め、観光客も増えた。

シンガポールの気概 恐るべし

 ビル群からマリーナベイを挟んで反対側に、渾身の力で作ったのが、今回の統合型リゾートだった。徹底的に突き抜け、世界が驚くコンセプトと形を…。その結果が、3棟の上に客船、ではなかったか。

 長男はこの建物を「マベサ」と呼んでいた。マベサ東側にできた植物園も、ワオッと驚く空間構成だった。展示の仕方も突き抜けていた。セントーサ島の水族館も動物園も、伊藤豊雄設計VIVOも大胆な発想に満ちていた。

 バンコク滞在時、この国は「ガーデン・シティ」と呼ばれていたので、ぼくは勝手に「箱庭都市」と名づけていた。あれから14年、もっと大胆なコンセプトと建築によって観光とビジネスを引っ張ろうという気概を感じる。いまなら「先端建築のテーマパーク」と呼びたい。シンガポール恐るべし、である。

 現地には兄夫婦が住んでいる。東京住まいの長男家族も現地で合流して、街歩きを楽しんだ。

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